テーマ:彼女と世界のあいだで

彼女と世界のあいだで 総合案内

 彼女と世界のあいだで  ある特殊な事情で魔法使いになった姫崎夕多は、都内にある一風変わった喫茶店で平和な毎日を送っていた。  しかしある日店にやってきた制服姿の少女がその〈平和〉を断ち切る。  特殊な体質で生まれついた少女。  命令に忠実な少女。  願いを叶えるために生きている女性。  いまも後悔している女…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅵ

     Ⅴ/ⅵ 〈伝説〉に続いて〈彼女〉が死んだ、という情報はすぐに〈組合〉、〈連合〉の両軍に伝わり、〈連合〉は勢いづき、〈組合〉は一部の過激派が瞬間的に増加した影響で全面衝突とは避けられない事態となった。  いまのところ〈伝説〉や〈彼女〉を欠いても〈組合〉の優勢は変わらないという見方が大多数だが、それはあくまで〈組合〉が…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅴ

     Ⅴ/ⅴ  楓は義兄の間抜けな呟きで魔法が成功したことを知ったが、素直には喜べなかった。  様々な葛藤の結果選んだ結果なら、自分でも仕方がないと思える。  しかしこれはほとんどとっさのことだった。  考える暇もなく、口を塞いでいた手が退いた瞬間にはもう詠唱をはじめていた。  だからこそ成功したいま、本当に正しい選択…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅳ

     Ⅴ/ⅳ 〈彼〉が消えた。  零佳はそれを見ていた。  目の前で、はじめから虚空だったかのように――月並みな表現ならはじめから幻だったように。  陽炎が冷たい風に揺られてなくなってしまったように。  靄の中に見えた人影が枯れ枝だったように。  身体は、そこにある。 〈彼〉の入れ物だったものは地面に転がっ…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅲ

     Ⅴ/ⅲ 「自分の中にもうひとつ心があるというのは、実感としてはどういうものなんだろうね。あるいは他人という概念自体が変わってしまうのかもしれないなあ。他人とは常に自分の内部にあり、内部だからこそそれを外部と認識しているのだ――とかね、おもしろそうじゃないか」  眼を閉じた夕多をぼんやり眺めながら、女はくすくす笑う。…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅱ

     Ⅴ/ⅱ  左の壁際にベッドがあり、右の壁際に書き物机があるだけの狭苦しい部屋だった。  赤毛の少女はベッドの縁へ座り、わかりづらい笑顔で乱入者を見ている。  服装はネグリジェのようなワンピースだったが、よく見れば所々に赤い染みがついていた。  それに気づくとベッドや床にも同じ染みがあるのが見え、やがてベッドの横に血…
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彼女と世界のあいだで Ⅴ/ⅰ

      Ⅴ/ⅰ  手紙が届いた。  味気ない無地の便箋には郊外のある小さな村への行き方と、たった一行、「最後のお誘い」という文字列があるだけだった。  差出人の名前もなく、宛先さえもない。  しかし彼らにとってはそれで充分であり、手紙という手段を取っている分少し洒落ているとさえいえた。  姫崎夕多と姫崎楓は手紙で指…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅶ

     instrumental/ⅶ  ここ数日忙しかったせいもあり、準備が済んでソファに沈んでいると時間を追うごとに身体が重たくなっていくようだった。 「でもこれで――とりあえずはひと段落、だな」  危険が及ぶかもしれない京は実家に預け、店もオーナーに許可を得てしばらく閉めることに決めた。  普段より頻繁に〈組合…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅵ

     instrumental/ⅵ 「この世の中ってさあ……」  ノンアルコールのグレープジュースを子どものような仕草で飲みながら、黒髪の女はぽつりと呟く。  つい先ほどまで部屋にいた異国の人間たちは去り、いまは同級生の異邦人と手足を椅子に縛り付けられた〈お客さん〉、それにソファでグラスを傾ける女しかいなかった。 …
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅴ

     instrumental/ⅴ  それはもしかしたら、恋愛感情と呼ぶべきものではなかったのかもしれない、といまになって女は思う。  いまから六年前、女がまだ中学生で、彼も「正真正銘の」中学生だった頃。  誰もが似たような悩みを抱え、しかしそれは自分が唯一独占できる悩みだと信じ、あるはずのない解決を捜してもがいていた…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅳ

     instrumental/ⅳ  これから少し忙しくなるかもしれない、と〈彼〉は言った。  それは彼が無断で外泊した次の日で、強い台風が東京を直撃した嵐の夜だった。  自分にはわからないなにかが起こっていて、それでも彼はなんとか自分を守ろうとしてくれているのだと少女にはわかっていた。  だから少女はわがままも言わ…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅲ

     instrumental/ⅲ 「姫崎夕多からレイを離脱させる方法はいくつか考えられるが、いちばん簡単なのは魔法による強制排除だ」  クラリスは相変わらず神経質に舞い散る埃一つひとつに顔をしかめながら、辛うじて発狂するのを抑えているような口調で言う。 「つまり我々は六年前に頼知博士が施した魔法とまったく逆の魔法…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅱ

     instrumental/ⅱ 「あなたほどの天才が、どうしてその程度の実験に何年もの期間をかけたんだい?」  女は心底不思議そうに言う。  男はいくつもの不快な単語を含みながらも全体としては素直な印象を受ける女の言葉を不思議な心地で聞き流し、話題を変えようとする。  しかし寸前で気が変わり、説明することにした。…
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彼女と世界のあいだで instrumental/ⅰ

     instrumental/ⅰ  これで三度目。 「でも――手は抜けないな、お互いに」  言って、魔法使いの少年は少し笑う。 「さすが、ミキだ。〈彼女〉に全力を出させる魔法使いなんて、そうそういないんだよ。でもミキは三回とも全力を出させた――それだけでも、充分すごい」  しかし魔法使いの少女はおもし…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅶ

     Ⅳ/ⅶ  それが思春期独特の、大人たちに話すと笑われたりからかわれる類の悩みであることは彼自身よくわかっていた。  しかし参考にできるほどの過去を持たず、悩みのない未来を想像できない少年にはいまこの瞬間こそがすべてであり、それが一時的な幻視だとわかっていても空は灰色で、星は監視者の視線だった。  風は心を騒がせる子ど…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅵ

     Ⅳ/ⅵ  一日を通して聞こえるのは虫の鳴き声が畑を耕す音だけ、というのどかな田園風景に浮かぶ、四角いコンクリートの箱。  窓がひとつもなく、明らかに正規の方法で建てられたものではないとわかるそれの内部は、しかしキッチンもあればバスルームもあるという人間が人間らしく過ごすための最低限はしっかり備え付けられている。 …
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅴ

     Ⅳ/ⅴ  魔法使いといえど、よほどの旧家に生まれない限り人生にそれほど制約がかかるわけではない。  突然変異として魔法使いになり、〈組合〉か〈連合〉のどちらかに属すことになったとしても、イコール戦争に巻き込まれるわけではないのだ。  中には魔法使いであることを隠し、一般人のように振舞いながら仕事勤めをしている者もいる…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅳ

     Ⅳ/ⅳ 「カエデ、久しぶりだな――」  姫崎楓は狭い機内で何時間も動けずにいたことで相当疲労が溜まっていたが、これから待っているイベント――ちょっとしたいたずらを思うと、気分はそれほど悪くなかった。  これから楓は都内にある実家ではなく、彼女の義兄、姫崎夕多の住んでいる一軒家へ向かう予定だった。  義兄には…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅲ

     Ⅳ/ⅲ  八月も終わりに近づいたある晴天の日、喫茶店〈眠らないアリス〉は開店以来はじめて臨時休業の札を店先に吊るした。  しかし以前から常連客には臨時休業の旨と理由を説明していたので、店先まで出張ってきてはじめて臨時休業の札を目にする人間はいなかった。  クリスマスだろうと年始だろうと店主が風邪をひこうと頑なに営…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅱ

     Ⅳ/ⅱ  夕多って変な字だろ、と彼は言う。  変な字のわりに俺自身はどこにでもいるふつーなヤツだから、それがなんとなく嫌なんだよ、と彼は笑う。  その悩みが自分と似ていて、その笑顔が自分と違っていて、少しおかしくなって少女は笑った。  すると彼は驚いたような顔をして呟く。  無表情の日本人形みたいで怖かっ…
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彼女と世界のあいだで Ⅳ/ⅰ

     Ⅳ/ⅰ  学校内に〈伝説〉と呼ばれた老人の死が伝わったその日、姫崎楓は担当教官に呼び出され生徒指導室に来ていた。  服装は茶色を貴重にしたブレザーに、学校指定のネクタイ。  下は地味な柄のスカートで靴下は白のハイソックス。  少しの着崩しもないその姿を楓と同室であるアリスは「学校紹介のパンフレットに出てくる学生みた…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅹ

     Ⅲ/ⅹ 「やあ、こんばんは、少年」  赤い傘を差した女は、仲良くひとつの傘に入るふたつの影を見つけて声をかける。  傘に入っているのは年若い少年と少女で、年齢は同じくらいに見える。  それはまやかしでもあるし、同時に本当でもあることを女は知っていたが、あえてなにも言わなかった。  黒い傘の下から少年の不思…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅸ

     Ⅲ/ⅸ  外は雨降り。  店内には煌々と灯がたかれ、しかし扉の隙間から入り込んでくる鬱陶しさを払いきれずにいる。  とても暑くて、梅雨でもないのに粘着質の雨が降る八月の朝。  背の低いレンガ造りの建物は雨に煙り、儚く点滅している。  女は黒い傘を閉じ、「おはよう」というプレートが掛かっているドアを少し開け…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅷ

     Ⅲ/ⅷ 「さて、どうしようか」  女は考える。  今日預かってきた資料と別ルートで送られてきた資料をテーブルに並べ、しかしそれには目を向けずに硬いソファの上で寝転がった。 「たぶん向こうにはもう〈伝説〉が死んだってことは流れてるだろうな……でもまあ、〈彼女〉の性格を考えればそれほど意識することもないか。警戒…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅶ

     Ⅲ/ⅶ  夕食はハンバーグだった。  それは夕多の好物であり、京の好物でもある。 「お互い子どもだなあ」 「あたしは子どもだからおかしくないですけど」 「俺だって見た目は子どもだもん。おかしくない」 「たしかにそうやってるとホントに子どもみたいですよ」  満面の笑顔で箸を構える夕多に、京は苦笑いすると…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅵ

     Ⅲ/ⅵ 「魔法というのは、つまり世界とより深く繋がることだ。それは世界の痛みを知ることであり、世界の喜びを分かち合うことでもある。私がどうしてあの〈伝説〉を殺せたのかというと、実は簡単なことなんだ。  魔法が世界と繋がることであり、人はみな多かれ少なかれ世界と繋がっているものなのだから、人を通して世界に膨大な恐怖や死を…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅴ

     Ⅲ/ⅴ  碧眼の女はなにかを探るように胸元に手を当て、かすかに顔をしかめる。  それを見て老人は、 「煙草かね」 「ああ、税関で時間を取られないようにと置いてきたのをすっかり忘れてた。憶えていたら途中で買ったのにな」 「きみはなにからなにまで女性らしくないな」  とがめるようなその老人の口調に、女は苦笑…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅳ

     Ⅲ/ⅳ  午後九時十二分。  姫崎夕多はいつもどおり戸締りを確認し、仕事がすべて終わった印にため息をつく。  仕入れからイベントまですべてをひとりで仕切るようになってから大体二ヶ月ほど経つが、相変わらず毎日が緊張の連続だった。  そのせいか一日の最後の仕事、戸締りの確認を終えると自然に息が洩れ、身体が重たくなる…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅲ

     Ⅲ/ⅲ  コンクリートでできた巨大な箱に客らしい客が来るのは建設以来はじめてのことだった。  どれだけ光をたいても拭えない薄闇の中で向かい合うふたりの女は、お互いに苛立ったような表情を浮かべている。  片方は赤い縁のメガネをかけた東洋人であり、もう片方は銀縁のメガネをかけた西洋人。  どちらもスーツ姿だが、…
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彼女と世界のあいだで Ⅲ/ⅱ

     Ⅲ/ⅱ  菅家奈緒は冷たい麦茶を飲み干すと、ほっと息をついた。  そして机を挟んで向かいに座る少年に目を向ける。  奈緒がはじめて園寡夕多と会ったのは小学校に上がってすぐだった。  幼い彼はどことなく頼りなさげで、男子の輪に入っても浮いてしまうし、女子の輪に入る勇気もないせいでいつもひとり窓際に座っているような…
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